• 2024年6月1日23:08:33更新

溺レル幸福 〜小説の中の着物〜 谷崎潤一郎『痴人の愛』

小説を読んでいて自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、谷崎潤一郎著『痴人の愛』。側から見れば堕落であろうが、欲望のままに溺れてしまうことができたなら。それはもしかしたら……とても幸せなことなのかもしれません。

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溺レル幸福 〜小説の中の着物〜 谷崎潤一郎『痴人の愛』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十七夜

今宵の一冊は、谷崎潤一郎著『痴人の愛』。

谷崎潤一郎の代表作といえば、やはり王道は『細雪』なのでしょうが、今回はあえてこちらに(とは言え、この『痴人の愛』も、あえてあらすじをご紹介するまでもないほどに有名な作品ではあるのですけど)。

カフエエ(作中表記)で見染めた15、6の少女ナオミを引き取り、自分好みの女性に育て上げ妻にする(これは『源氏物語』以降、永遠の男性の夢とも言えるテーマなのでしょうね……)譲治。生真面目なサラリーマンであったはずの譲治が、艶やかな徒花のごとく開花していくナオミに翻弄され、いつの間にか主従が逆転していく(いや、実は最初から……?)過程が描かれます。

谷崎作品のほぼすべてにおいて言えることではありますが、ストーリーとしては、とにかく著者の志向全開と言いますか(そう言うと身も蓋もないけれど)、この時期の著者の理想の女性像と自分との有り様をストレートに書き綴ったものなので、現代的な感覚で言うとツッコミどころがあり過ぎて正直語りようがないのですが、谷崎作品を読んでいて面白いなと思うのは、著者本人のこだわりがそのまま投影されているがゆえに、登場人物の仕草や行動の細部が自然で、まるで記録映像を観ているかのようにリアリティがあり、体温や湿度を感じる描写が多いところ(だからこそ、変に実感できすぎて何ともいたたまれないような気分になることも)……。

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。

側から見れば破滅であろうが堕落であろうが、賢いふりをせず、開き直って、理性も常識も道徳も自らを縛るすべてを手放して、ただ欲望のままに溺れてしまうことができたなら。それはもしかしたら……とても幸せなことなのかもしれません。

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