• 2020年12月2日20:21:39更新

【着物動画つき】世界213カ国の着物完成!創始者高倉慶応さんロングインタビュー!

東京2020オリンピック・パラリンピックに参加予定の世界全213の国と地域の文化や歴史、自然をイメージし着物と帯を制作し「世界はきっと、ひとつになれる」というメッセージを表現しているKIMONO PROJECT(一社・イマジンワンワールド)。今回はファウンダー高倉慶応さんのインタビューをお届けします。

世界全213カ国・地域をモチーフにしたKIMONO完成!

2014年にスタートし6年の歳月を経た2020年7月、ついに世界全213カ国・地域をモチーフにしたキモノプロジェクトのKIMONO(着物+帯)が完成。

東京2020オリンピック・パラリンピックは残念ながら延期となりましたが、2020年10月、京都市京セラ美術館にて特別展覧会「2020着物に世界を映す」が開催され全213の着物と帯が展示されました。

全ての作品が一堂に会すのは今回が初!

KIMONO BIJINは2日間に渡り取材させていただきました。

1つの記事ではお伝えしきれないほど見所やお届けしたいことが多すぎるので、何回かに分けてお送りします。

今回は注目の創始者・高倉慶応さんのインタビューをお届け!

プロジェクトで感じたことや、業界のこと、想いなど、気になる話をいろいろ伺いました。

【インタビュー】ファウンダー/KIMONO Producer 高倉 慶応さん

高倉慶応さん

一般社団法人イマジン・ワンワールド 設立者
 KIMONO PROJECT ファウンダー・創始者

1968年福岡県久留米市出身。1990年慶応義塾大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。1992年祖父の代より続く蝶屋株式会社に入社。現3代目社長。

Q1. 制作する上でどのようなことに気をつけていましたか?

「制作については、途中で少し考え方を変えたんです。もちろん、相手の国のことは一生懸命制作前にリサーチしてましたが、最初の53カ国ぐらいまでは、絶対一度大使館に行って、いろんな情報を直接もらうというよりも、制作発表会に来て頂いて完成した作品を喜んでもらうというスタイルだったんです。中には大使館に事前にコンタクトをとった国もありますが、いわゆるサプライズ系だった。サプライズギフトですね。ただ、こちらで相手の国のことを調べ、相手の国の人が喜ぶであろうデザインを考案するっていうのが、やっぱり限界というか聞いた方が正確だ、ということに気がついたんです。プロジェクトもある程度進捗してきて、もうご説明しても恥ずかしくない状況まで僕らが進んできたし、大使館に行って色々情報をもらおうって、そこから大きく方針を変えました。

気をつけた点は何かというご質問ですが、気をつけた点と言うか、まず情報をダイレクトにその国の人たちからちゃんともらうということを、それからはずっと心がけました。大使館がある国ない国ありますけど、もう全部、とにかく行ってみようじゃないかって。その国の方々の想いもデザインに反映させようということにしたんです。」

Q2. 特に苦労したことはなんですか?

「こちらが思うことと、相手の考えや受け止め方がやっぱりズレることがあるんです。こちら側が良かれと思って描いたものが、向こうにとっては『いや、ちょっとこれは・・・』みたいなことが、どうしてもあるんです。そういう面で、苦労した国もいくつかあります。」

Q3. そうすると、喜んでくれると思ったら「あれ?」と思うことも?

「そう。ロシアの着物は完成後に一部修正したりとか、そういうこともやっぱりありましたよ。お互いにとって良いものができるための修正であればね。結果として修正してよかったと思います。今振り返ってもね。

大使館からお話を伺い、そんなことがあるのかと、いろんな驚きもありました。もっとこうした方がいいよ、というイメージをいただいたり、アドバイスを聞いて、新しい発見や勉強になることがたくさん出てきまして、それをもとに作者に『こういうモチーフで』とか『これよりこっちが好まれるみたいだよ』とか、そういうことを、きちんと整理して制作していくようになりました。」

Q4. 逆に嬉しかったことはなんですか?

「嬉しかったのは、自分たちの国の着物を僕以上に説明してくれる大使さんもたくさんいるんです。私が説明するのと、その国の大使が説明するのとでは、受け手の感じ方がだいぶ変わりますよね。喜びやその国の想いがもっとダイレクトに伝わる。そして、大使館の方が他の国の大使館の方を紹介してくれたりとか、大使が大使に繋いでくれたり、話がどんどん話が通りやすくなっていったのはよかったですし、嬉しかったですね。」

Q5. 挫折しそうになった時はありますか?

「それはありますよ。思うように資金が集まらなかった時期もたくさんありました。職人さんたちに支払いを待ってもらったりとかね。やっぱり電話したくないよ、『すいません・・・待ってもらえませんか』とか。あんまりそれが続けば悪い噂が流れてプロジェクト自体がダメになってしまうかもしれないし。でも、ないときはしょうがないから、しっかり説明して、でも資金がなくても着物は作っていかないといけないしね。今注文なんかしてていいんだろうかとか、挫折と言うか非常に深い悩みをいっぱい抱えてきましたよ。」

Q6. どう解決していかれたのですか?

「待てる人は言ってください、待てない人も言ってくださいと、その順番でどうにか頑張って払っていきますからって言うようなことだったよ。みんな協力的だった。そういう時、自分の力も試される。信用も試されるし。

お金のことのほか、苦しかったのは、やっぱり国によっていろいろ都合が全然違うからね。デザインについて、いつまでたってもいい返事が来ないとかね。不安というか不審というかいうのを抱いてしまった時期もありましたけど、まあ出来上がって皆さんすごく喜ばれましたからよかったのかなと思ってます。よく間に合ったと思いますよ。」

Q7. 目標の期日に制作が間に合い、こうして全ての着物が一堂に会しました。とても素晴らしいイベントでした!感想をお聞かせください。

「そうだね、いい場所で、そして価値があるようにやらせて頂いたと思います。泣いてくださるお客さんもいた。苦労しただろうって泣いてくれた人もいたし、素晴らしいねって泣いた人もいた。僕は、お金がかかるからやらない、かからないからやるという、そんなものさしで物事を考えちゃだめだと思ってる。お金が必要ならばその分稼がなきゃ。これだけの資産を持ってる団体としてプライドをちゃんと持って、やるなら立派な場所で、適切な時期にやった方がいい。もちろん条件が良い方がいい。必要な資金はみんなで解決して、集めていく。そのそういう考え方にならないと、心が豊かになれないと思うんですよね。」

Q8. 全国の職人と仕事をして感じたことはありますか?

「皆さん同じだと思ったところと、地域によって違うなって思ったところが、それぞれあります。同じだと思うのは、着物がみんな本当に大好きで、自分の仕事に誇りを持っていらっしゃるってことは、全国共通でした。お願いしていなくても、それぞれに創意工夫をしていただいて、仕事に対するひたむきさ、真面目さ、これはある意味日本人の気質なんだなと思いました。

地域によって違うことは、自分たちが過去に制作してきた雰囲気あるじゃないですか、それに良くも悪くも縛られちゃっているなと。加賀友禅とはこうあるべし、久留米絣とはこうあるべし、というように、なんとなく自分たちに課した制約と言うか縛りというか、あれがやっぱり多いなと思いましたね。どこの地域に行ってもあるなと。自分たちが自分たちの仕事の幅を決めちゃっているかもしれない。だからものづくりが硬直化してしまっている。地域それぞれに気質は全然違うけど、抱えてる問題は一緒なんだと思いましたね。もっと自由に作っていいのにって思いますね。」

Q9. それでも、このプロジェクトをきっかけに殻破りの挑戦をした作家も多いのでは?

「いっぱいあります。ぱっと見わかりにくいところもあるんだけど、総じて言うと自分で作っていた壁・殻を破ってもらった人は、年齢に関係なく大勢います。良いことだと思いますね。新しい自分を発見してもらえたと思う。制作前に皆さんに説明する時、『これは自由です。加賀友禅だからこうじゃなきゃいけないとか、うちの会社はこういう感じの染めをずっとやってきたからこうじゃなきゃとか、それは全然関係ありません。』と伝えています。これまでの実績で、スキルある方達にお声がけしているわけなので、遠慮とか、自分にあるルールみたいなものはナシでやりましょうってことは強くお話をしてきました。」

Q10. だから斬新というか、新しい感じがするのですね。

「新しいって何かって言うと、古きを温め、そして新しきを知るって言うね、温故知新って言うけど、まさに今回はそれがちゃんとできたんじゃないかな。いきなり新しい事やったってうまくいかない。ただ楽しいばかりが能じゃないわけですね。これまでやってきた人たち、実績のある人たちだからこそ、新しい試みに価値が出てくるんです。 」

Q11. 着物業界衰退のニュースなど暗いニュースもありますが、実際、制作現場の状況はどうですか?

「現場はもう危機的を通り越して絶望的な状況だと思います。でもね、このプロジェクトが当初不可能だって言われた事が出来た今を前提に言うと、状況は絶望的だけど、僕はたくさんの希望も持っているんです。なんで状況が絶望的かと言うと、生産数や機屋さんの数とか実際数字は減少しているとかそのように言ってるわけね。だけど、まだ作れる人がいるんだから、実際。」

Q12. 後継者がなかなかつかないといった問題についてはどう思われますか?

「魅力のある業界にならないと後継者はできない。どの仕事でもその仕事に未来があるとか、その仕事に希望が持てないと、後継者を見つけて一度入ってもらっても結局いなくなっちゃうわけですよ。何回供給しても供給してもいなくなっちゃう。ということは彼らが希望を持てる仕組みを作っていかないと、食べれると言うかね、着物関連の仕事をしていた方がいい生活もできるかもしないとか、というように。これについても『そりゃ無理やろ』と言われるかもしれないけど、今の僕にとっては、やればできるんじゃないかって思います。ただ、みんなで力を合わせないといけない。力を合わせられなかったら無理ですよねって、いくらなんでも。そう思ってます。

誰と力を合わせられるか、どこにどんな考え方の人がいるのか、時期による特性とかは、今回のプロジェクトが一番よくわかる、僕にとっていい経験でしたが、それらが分からないと要するにお医者さんで言うと薬が出せないわけです。いい分析ができましたし、みんなで一つの大きな成功体験ができたと思っています。」

おっしゃる通り、みんなで力を合わせて成し遂げた成功体験があるから、何事もやればできるという気持ちになりますね!

Q13. 今の職人さん・作家さんが作ったものは素敵ですがなかなか高くて買えないです・・・。レンタルとかお手頃なリサイクル・アンティーク着物の需要が増えても、今の作家さんにお金が回らないと産業が成り立たないんですよね?

「それはその通りです。今後自分達が気をつけなきゃいけないのは、安いものを作ったら売れるんじゃないかと考えてしまうこと。それも問題があるわけです。今は買えなくても、将来お金を貯めていいもの・好きなもの買えばいいんじゃないですか。それまで、人からもらったりとか、値打ちがあるもの自分で見つけて、着てみて、着心地とかいろいろ試してみるといいと思います。入口はアンティークでもリユースでもいいんです。経験したことによって、だから染めがいいと違うなとか、生地がしっかりしている方がいいなって事がわかるわけです。何が違うのか、いいものはどこがいいのかっていうのを知る。物欲ではなく、美しくなりたいと願い美意識を高めることは大事ですね。

職人さん達が仕事をするとコストがかかるのは当然。やっぱりね、作るだけでも駄目です。買ってもらわないと世の中回らない。今回は"作る"ということに関して、とても力を発揮したプロジェクトでした。で、今度は売るというわけじゃないけど、それを着ることができたり、手に取れるように、そういう仕組みを新しく作って行かなきゃいけないんだろうなって思ってます。そうすることで、こういう美術的価値のある作品の作家さんたちが、経済的に困らないような活動ができるように、別の考え方のプロジェクトができたら・・・、まあ僕の中ではそれが次の宿題と言うか、課題だと思ってるんだけど。」

Q14. 将来の着物の活用方法について少しお話しいただきましたが、今後の活用について他に具体的な計画などありますか?

「これは皆で話し合っていかなきゃいけないことですが、意味があることだったらやっていいと思います。ただ、貸し出してお金稼げばいいのではない。貸衣装屋さんじゃないので、貸して儲けるために作ったわけじゃないです。これはいろんな方々から心あるアドバイスを頂いていますが、自分たちの値打ちを下げないようにしなきゃいけない。どこにでも行きます、何でも貸しますじゃダメだと思います。着物を使ってもらうことによって、例えば、より理念に沿った活動ができるとか、職人さんたちにとっても大きなプラスになるとか、子供達に教育の意味で体験してもらうとか、それは価値あるかもしれない。ただ、たくさんお金出すから何枚か貸してよって言われても、そりゃ違うでしょ。そういう時は自分たちが試されます。お金が絡むとね。プロジェクトを継続させるために必要なこともありますが、作品に関してはお金を出してくださっている人たちがいる以上、彼らが支援してくれた理由を理解し、意に反することはやっぱりしちゃダメですね。」

Q15. 世界をより一つにしていくための今後の活動について教えてください。

「世界平和って簡単に口にしてダメな問題で、僕たちがそれを目的としてるなんて違うと僕は思っています。平和へのメッセージを発信はしたい。自分たちができる活動としては、『世界は一つになれる』というメッセージを一生懸命発信し続けることだと思う。あなたにできるイマジンワンワールドって何ですかってことを考えてもらうことだと思っています。自分のことだけじゃなくて、相手の事も考える。そういう人が一人でも多くなればいいわけですよ。このプロジェクトも、相手の国のことを知ることから始まりますから。 メッセージを届けるだけでも一生かかりますね。世界は広いし。でも一生発信し続けることができたらそれは素晴らしいことだと思うよ。」

Q16. 最後に読者にメッセージをください!

「まず、日本の方は、日本人に生まれて良かったっていうことに気づいて欲しいです。日本って国は恵まれています。世界的にみても。いろんな国を勉強させてもらいましたけど、本当に恵まれている国だと思いました。経済的にも、自然や文化の面でも、いろんな面で日本は恵まれています。

あとは、先輩、親、先祖、祖先の人たちをもっと大事にしなきゃいけない。それが基本的には文化を生むんですよ。自分たちのことだけを考えていたら、未来も考えなくなる。まずは自分たちの上の世代の人たちにしっかり感謝をする。そうすると、その人たちが大事にしてきたものを大事にするようになって、そして未来を語れるようになるわけです。先人たちが何をしてきたかは文化の中にある。先輩方は軸をぶらさず、その時代その時代努力をして大切なものを守ってこられたと思うんだよね。

おばあちゃん、おじいちゃん達が大事にしていたものが何なのか、何で仏壇にこんなお金をかけてきたのかとか、せっかくおじいちゃんが立てたお墓を草ぼうぼうにしてていいのかって、例えばだけど。身近なことから考えてみる。

大切なものが何かを考える時、自分ではなく、人の大切なものを見つけるようにしている。僕の使命にしていることです。今、もう一度、大事なものは何か、きちんと見つめ直すべきじゃないかな。」

身近すぎるとそのありがたみや、素晴らしさに気づきにくいものですよね。失ってはじめてその価値に気づいたり。大切なものを守り、継承し、より今を豊かしていくためにも、大切なメッセージだったと思います。

超ロングインタビューにご対応いただき、本当にありがとうございました!

動画で世界一周!213カ国分の着物・帯をチェック

この記事のライター

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